Gold Signature Business Lounge

  • VOL.1
  • VOL.2
  • CAST 紹介

ビジネスパーソンの読書論

SESSION REPORT

日本のビジネスにいま、もっとも足りないもの。それは、「教養」です。日本の多くの企業が、創造的な商品やサービスを生み出すことができない。なぜでしょうか。それは、人々の営みを、歴史を、科学を、自然を、地球を、生命を、文学を、哲学を、あまりに軽んじて、目の前の些末な情報だけにとらわれたビジネスしかできていないから。……つまり「教養」が欠けているのです。では、「教養」はどうすれば手に入るのか?とっても手軽で、しかも最高の方法があります。「読書」です。

ただし、「読書」で「教養」を手に入れるには、読書の質がとわれます。ありきたりのビジネス書だけを読んでも「本物の教養」は手に入りません。そこで、究極の読書の先生をお招きしました。フランス文学者であり、日本屈指の書評家であり、膨大な蔵書を所有する明治大学教授の鹿島茂さん。マイクロソフト日本法人社長として経営手腕を発揮し、現在では注目の書評サイト「ノンフィクションはこれを読め!HONZ」を主宰する成毛眞さん。

日本を代表する屈指の「本読み」の2人に、仕事の役に立つ、人生の役に立つ「読書の技と楽しみ」、開陳していただきましょう。

― まず、超初歩的な質問をいたします。本、どうやって選んでいますか?

  • 鹿島とりあえず、本屋に行きますね。
    僕の本選びは、店頭で「お、これ面白そうだな」と本を選ぶ「現場主義」です。いくつもの本屋を巡回する。よい読書は足で稼ぐところから始まる。いきなり読書の質なんか求めてもダメです。なんでもそうですが、「量が質を決める」んです。
    本屋さんに行って、大量の本を目の当たりにすること。実際に本を手を取ってみること。そうやって選んで、自腹を出して買って失敗していくうちに、「本選び」の勘が養われていきます。その勘も常に磨いておかなければ鈍ってしまう。だから毎日のように本屋に行くわけです。
    ちなみに僕の日頃の巡回ルートでは、神田神保町界隈では東京堂書店、最近では代官山に昨年オープンした蔦屋書店、この2つの本屋さんで面白い本に遭遇する率が高いかなあ。
  • 成毛ウェブで書評サイト「ノンフィクションはこれを読め!HONZ(以下HONZ)」を運営していますが、私自身も、自分が買う本は本屋さんで選ぶことが多いですね。
    「HONZ」に参加しているメンバーたちは、本屋に行って本を選ぶのを「本を狩りにいく」と称しています。「HONZ」では、取り上げる本の種類に縛りをかけておりまして、①ノンフィクションであること、②発売されてから3ヵ月以内の新刊であること。
    で、メンバー同士が競争する。新しくて、面白くて、珍しくて、皆にいばれる本を、誰がより早くゲットして、「HONZ」で紹介できるか。そうなると、アマゾンで探しているだけでは、「まだ知らない面白い本」は見つからない。そこで本屋を「狩り場」に見立てて、新刊を探すわけです。中身はもちろんですが、例えば印刷状態やしおりの色まで、徹底的にチェックします。「HONZ」のメンバーは書評家というよりは「本マニア」なんですね。
    そんな私が、よく行く本屋さんは丸善の日本橋店と丸の内本店ですね。あの近辺で用事がある次いでに立ち寄ることが多いです。

― その勢いで買っていると、おそらくお持ちの本、膨大な量になりますよね。蔵書はどれくらいお持ちですか?

  • 鹿島以前、神田に仕事場があった頃は、ほぼ毎日、神田神保町の本屋街を訪れてましたね。当然、どんどん買っちゃう。買いすぎて、置き場がなくなる。今は、仕事場が私鉄沿線の明大前に変わったので、ほっとしてます(笑)。横浜にある家と、東京にある家と、大学の研究室と、いろんなところに本を置いてますが、たぶん5万冊くらいはあるかな……。そうそう、どうすれば本を効率的に収納できるだろう?と考えているうちに、家具屋さんから声がかかって、オリジナル本棚「カシマカスタム」まで開発しちゃった(笑)。

― なんと「カシマ」印の本棚まで売っているんですか!

  • 鹿島ええ。楽天市場なんかだと、本棚分野ではかなり人気みたいですよ(笑)。
  • 成毛私は、もう冊数を数えるのを止めました。東京の家も書斎として使っている別の家も、本で埋め尽くされております。鹿島先生の蔵書と違って、ノンフィクションの新刊ばかりなので、古本的価値のある本はないんですけどね(笑)。で、本が溜まりすぎると、山荘に送るようにしています。かくして山荘も本だらけに……。

― そんな勢いで本を買っていると、どんどん本が溜まっていきますよね。一冊一冊ちゃんと読む時間ってどうやってつくるんですか? もしかして、効率的な本読みの秘訣があるんですか?

  • 鹿島いつもそれ、聞かれるんですよねえ。買った本、ちゃんと読んでますかって。もちろん全部読もうと心がけています。じゃあ、たくさんの本を完読するコツがあるか、というと、コツはなくって、代わりに「締め切り」がある。
    新聞や雑誌の書評欄を担当しているから、読書にも当然「締め切り」があるんです。この「締め切り」があるから、全部読める。……というか読まないといけない。
    書評を本格的に始めて20年になりますが、今でも「締め切り」なき読書で全部読むのはけっこうツラい(笑)。締め切りがあると、分厚い本を一晩で何冊も読めちゃう。不思議なものです。

― たくさんの本を完全読破する秘訣は、書評の締め切り、だったんですね。成毛さんはいかがですか?

  • 成毛私も「HONZ」に書評をたくさんアップするし、メンバーという名のライバルたちが毎日毎日新しい書評をあげてくるので、けっこうな数の本を読みますね。メンバーたちの書評がどんどんアップされるのがプレッシャーとなって、背中を押されて、書評を書いているかもしれませんね。今週は「HONZ」に書評を3本アップしました。
    あ、でも、どの本も100%完読したわけじゃない。斜め読みです。ということは、週に2、3冊斜め読みして、まじめにちゃんと読んでいるのは、月に5冊くらいかなぁ。10冊読んだら拍手喝采ものですね。

― すべての本を完読しなくてもいいんですね!

  • 鹿島そりゃそうです。基本的には1冊まじめに読み切ったほうがいいんだけど、「あ、こりゃだめだ」と思ったら、その本に見切りをつけてよし。最初の20~30ページくらい読めばだいたいわかりますね。完読に値するかどうかは。書評に上げるために自分で本を選ぶときは、この「ちょい読み」の第1次選考で落ちるものが結構あります。

― ここで、成毛さんが運営する書評サイト「HONZ」についておうかがいしましょう。これまで経営の分野で活躍されていた成毛さんが、なぜ書評サイトを始めたんですか?

  • 成毛私は2000年までマイクロソフトの日本支社の社長をやっていたんですが、経営に飽きちゃいましてね、引退しました。その次に、自分でインスパイアという会社を立ち上げて投資コンサルティングとベンチャーキャピタルをやっていたんですけど、こちらも5、6年やっていたら飽きちゃいまして(笑)。仕事は若い連中に任せて、自分は後ろに引っ込むことにしました。
    そのとき54歳。微妙な年齢です。何か新しいことをやりたいとも思ったけど、まったく新しいベンチャーを始めるにはいささか年をとりすぎている。そんなとき、俺の好きなことって何だろう? あ、本だ、だったら本の紹介でもするか!と思いついたんですね。そこで、まずは自分のブログで書評を書き始めた。

― 起業から書評へ、だったんですね。

  • 成毛でもね、ひとりでやってるのはさびしいんですよ。一緒に本を読んで、競争して書評する仲間がほしいなあ。よし、じゃあ、素人の本好きを公募して集めちゃおう。で、ブログで呼びかけたら、60人応募してきて、8人が残りました。
    それが今の「HONZ」のはじまりです。人選が良かったのかな、集まった連中の書くものが実に面白いですね。下手なプロよりうまいんじゃないでしょうか。というのも、みんな本業がばらばらで別にあるから、いい意味でキャラが立っているんですね。
    たとえば、格闘系ノンフィクションが大好きなやつは普段は広告会社のサラリーマン。その他にもシェールガスの開発をやっている大手商社マン、新聞記者、大学の先生と多士済々です。
    一見、ばらばらのスタッフだけど、共通点はあるんですよ。みんな、ある程度年齢がいっている、ということ。要するに、よりたくさん本を読んでいる、ということ。結局、それまでに本を読んだ冊数、選んだ冊数がモノを言う部分があるんですよ、書評は。たくさん読んできた人の書評はやっぱり面白い。

― 「書評」はいちばん頼りになるブックガイド。それだけに、書評の中身、気になります。書評界の大ベテランである鹿島さんにお聞きしたいのですが、「良い書評、悪い書評」の見分け方ってありますか?

  • 鹿島書評はね、実際に書いてみるとわかりますが、本当に難しいんです。褒めすぎてもけなしてもいけませんからね。その本に見合った正確な評価をする。これが「まっとうな書評」です。じゃあ、どの書評が正しいかをどうすれば見抜けるかといいますと、いっぱい書評を読む……ことではなくて、あなたも書評家になってみること。

― 自分で書評を書け、ということですか?

  • 鹿島その通り。本を読んだら、とにかく書評を書いてみる。いくつも書いているうちに、他人の書評を読むと見えてくるんですね。あ、こりゃわかっているやつだな、あ、この書評はうわっすべりだな、というのが。
  • 成毛自分で書評を書く、というのは、本を読む上ですごくいいペースメーカーになりますね。私も「HONZ」で書評を書いているのでとっても実感できます。あとは、とにかく本屋に足を運ぶことかな。本に対する視野を広げないと、面白い書評は書けない。

― とはいっても、いきなり書評を書くというのは、ちょっとハードルが高いような。なんかコツがありますか?

  • 鹿島私が20年続けている毎日新聞の書評ですが、ここの担当者が掲げた「書評3原則」というのがあります。これがすごく実践的で役に立つ。
    1番目は、「最初の3行で引き入れろ」。読者は基本的に忙しい。だから最初の3行が面白くなかったら、絶対に書評を読んでもらえない。読んでもらえなければ、とりあげた本を面白いとも思ってもらえない。だから、最初の3行が重要です。
    2番目は、他の人にその中身を吹聴できるくらい、その本の面白さを要約しよう。これもけっこう難しいんですが、ほら、面白かった本や映画って、家族や友達にいかに面白かったのかを話したくなるでしょう? 書評ってあれの延長みたいなところがある。だから、逆に、読んだばかりの本について家族や友達に話してみるんです。人に話しているうちに、要約がうまくなる。どう伝えると面白さが伝わるからわかってきますからね。つまり書評もうまくなるわけです。
    3番目は、けなし書評はやめろ。けなすのは簡単なんです。あら探しですからね。ほめるほうがずっと難しい。けなしたくなるような本は、人に勧めるわけじゃないんだから、そもそも書評しなくていい。面白かった本の面白いところを人に伝えてこそ、いい書評です。
  • 成毛「HONZ」もけなす書評は書きません。「HONZ」では、毎月朝会を開いて、メンバーが3冊ずつ候補作を持ってくるんですね。全部で60冊くらい。でも、実際に書評として紹介するのは20冊ほど。残りは何らかの理由で落としちゃいます。面白くないものはもちろん落とされるし、面白いんだけど書評しにくい本なども外します。
    では、一次選考を通過した本を、私たちはどう書評しているのか?
    「HONZ」の基本コンセプトは、「評論する」のではなくて、「おすすめ本を紹介する」。それだけに取り上げる本の「おすすめのポイント」をちゃんと見つけてちゃんと紹介できるかどうか。これを探すのが本読みの醍醐味です。
    面白い本って、著書が思っている「ここが売り!」という箇所が必ずあるんですよね。でもその「売り」が、本の中では一見強調されていないケースがけっこう多い。著者が密かに、ここなんだよね、と思っている「売り」を発見して、紹介する。これが、「HONZ」における良い書評の必要条件です。
    でね、こうやって正しくその本の「売り」を見つけた書評をすると、10回に1回くらい、著者からお礼のメールや手紙が来たりするんですよ。新聞や雑誌の書評でも書いてくれなかったところに気づいてくれた、ありがとう!って。

― 分量はどのくらい書けばいいんでしょうか?

  • 成毛あんまり短いと書きたいことが書けないですからね、できれば2000字くらいかな。2000字あれば、その本を取り巻く環境や時代や風景までをも描写できるし、自分がなぜその本に入れこんだのかも書き込める。そういえば、鹿島さんの毎日新聞の書評は、ほかの新聞書評に比べてずいぶんボリュームがありますよね。
  • 鹿島新聞書評は各社とも原稿用紙2枚800字なんです。ところが800字というのは、実に中途半端な分量で、内容の要約をしたらそれだけ、本の中身の引用をしたらそれだけ、となってしまうんですね。
    毎日新聞はずいぶん昔に書評欄を改革して、一気に書評1本あたりの分量を増やしたんです。原稿用紙にして3.5枚。1400字です。担当者に言わせるとこの「0.5枚が決め手」というんですね。実際に書いてみると、それがよくわかる。内容を要約し、内容を引用し、と実に贅沢にいろいろなことを書けるんです。先日亡くなった丸谷才一先生が、毎日新聞の書評欄を率いていたんですが、丸谷先生の書評に関する哲学が毎日新聞の書評風土を支えたとも言えますね。

― なるほど?。フェイスブックなどにアップすれば、「友達」という読者もすぐにつきますしね。受け身の読書から、書評を書いて攻めの読書へ。勉強になります!
続いて、ちょっと恥ずかしい質問を……。実は、本をいくら読んでも、すぐに内容を忘れてしまう。どうすれば忘れないでしょうか?

  • 鹿島わはは。本って読んでも、内容、すぐに忘れちゃいますよね。そんなの僕だって一緒ですよ。じゃあ、どうすれば忘れないかというと、さっきの書評のテクニックとおんなじことをやるんだよね。読んだ本の内容を、家族や友人の前で話すわけです。これで頭の中で整理がつくし、内容を反芻することで、いやでも記憶に残る。大長編小説を読んだときなんかは、いつも食事の時間に、家族の前でストーリーを話してますよ。今日読んだところまでは、こんな物語だったんだ、って。おかげで、なんとか自分も覚えていられる。
  • 成毛鹿島先生のご家族がその本読みたかったら、不幸以外のなにものでもないですね。毎日ネタバレされちゃうわけだから(笑)
    でも、おっしゃることは、よくわかります。私もすぐに忘れちゃいますよ。大半の本はそもそも積ん読だしね。それで思い出した。「HONZ」を始める4?5年前にブログで書評をスタートしたのが、僕が書評の世界に足をつっこむきっかけだったんですが、スタートの理由のひとつは「読んだ本の中身をすぐに忘れちゃうから」。中身を忘れないうちに、備忘録代わりに書評をしちゃおう、と思ったんですね。
    その意味でも、書評を書く、というのは本を読む上で実に有効な手段ですね。自分の書評が自分の記憶装置になるわけですから。

本をよりよく読むには、読むと同時に書評を書く。ものすごくポジティブな読書術をお2人に教わりました。Vol.2では、読書を仕事に役立てるには、どうすればよいのか、について伺っていきます。

【会場ご協力】

ホテル グランパシフィック LE DAIBA
2F メインバー「ルイ ロペス」http://www.grandpacific.jp/restaurant/ruy_lopez/
〒135-8701 東京都港区台場2-6-1 TEL: 03-5500-6603

CAST 紹介 Vol.2 »